〜 ハリセンボンのおびれ 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

ドッグイヤーも専門用語も──中身のないコンサルが見抜かれる瞬間

     

1990年代後半から2000年代前半、いわゆるドットコム・バブル期にシリコンバレーが全盛期を迎えていました。そのころよく耳にしたのが「自分たちの時間感覚はドッグイヤーだ」という表現です。犬の1年は人間の7年にあたるので、シリコンバレーの人材は普通の人の7倍のスピードで成長している、という主張でした。しかし、私はその言葉を聞いたときからどこか白々しさを感じていました。

同じような匂いを、現在のコンサル業界にも感じます。FYI(for your information=ご参考までに) や TBD(to be determined=未定)、KPI(key performance indicator=重要業績評価指標)だの、オンボード(on board=参加・同意すること)だの、横文字や略語を振り回してスピード感や一体感を演出します。しかし、それは本質ではなく、安っぽい虚飾にすぎないと感じます。
「その点にはアグリーします!」と言ったコンサルを見たよ。まさにBS=ブルシット。

実際に私は、ある案件で「有名ファーム」に外部コンサルを入れたことがあります。テーマは中国におけるサプライチェーンの人権監査でした。担当者として現れたのは30代後半の女性コンサルタントで、「中国の事情をよく知っている」と自信満々でした。しかし実際には、中国語は一言も話せず、会食の食事マナー、あるいは、庶民食堂でお湯でお箸や蓮華を洗うことすら知らず、現地の感覚に触れたことがまるでない様子でした。

その彼女が得意げに主張したのは「工場監査は抜き打ちでなければ意味がない」「生産ラインの従業員をランダムに抜き出してインタビューすべきだ」といったものでした。しかし、事前アポなしでは工場の門にすら入れません。ガードマンに止められて数時間が過ぎるのが現実です。さらに、稼働中のラインから作業員を突然抜けばラインは止まり、代替要員を投入すれば歩留まりが大幅に悪化します。製造現場を知らない人間の机上論であることは明らかでした。ただし、プレゼン資料の出来映えだけは立派でした。ここに、外面の巧さと中身の空虚さの落差が端的に表れていたのです。

あるネット記事でも似たような指摘を読みました。そこでは「コンサルから事業会社へ」転職した人の悩みや、「事業会社からコンサルへ」と転職した人の驚きや苦労が紹介されていました。コンサル出身者はThink-cellが使えずグラフ作成に手間取り、テンプレートもなく毎回ゼロからスライドを作る羽目になると嘆く。その一方で事業会社出身者は、コンサルで「質とスピード」を同時に求められ、会議を相談の場と誤解して叱責されたり、年下から厳しい言葉を浴びたりする。背景にあるのは役割や評価制度、時間軸など働き方の違いだといわれたそうです。(コンサル会社の採用担当はなにをしていたんだろうかね?そーゆー人は面接で落とせばよかったのにね。)

市場拡大もこうした動きを後押ししています。学生の間では「とりあえずコンサル」の“とりコン”という言葉まであるそうです。ただ、知り合いのある大学教授に話を聞くと「ここ数年は人気も落ち着いている」という声もありました。「潮目が変わったみたいだぞ」と。流行には必ず波があるのです。

あの会社はすごい、この人はすごい──そう言われていても、実際には“そんなにすごくない”のが実情ではないでしょうか。どれだけ立派なパワーポイントを作っても、コンサルには、優秀な品質の電子製品を何十万台も作って世界に同時出荷することもできない。工場のラインを回すこともできない。もちろん、石油は掘れません。せいぜい掘れるのは「資料のページ」と「依頼主の財布」くらいなのかもね。

「私たちは事業の成否には責任は取れません」って立派なプレゼン資料のすみっこにちっちゃい文字で免責事項が書いてあるのを知っていますか?だからこそ受け手側は、ドッグイヤーだの妙な「コンサル専門用語」だのに惑わされず、本当に価値ある知恵かどうかを冷静に見抜く必要があると思います。

さもないと、請求書を見て心臓の血が凍ってしまうのよ。

 

©️ 朽木鴻次郎 プロダクション黄朽葉
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