〜 ハリセンボンのおびれ 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

「ノモンハン 責任なき戦い」NHK 2018.8.15 〜 その2

 

NHKのこの番組、どうも不完全燃焼っちゅうか、せっかく独自調査団(でもどんな人たちなの?)を派遣したり共産ロシアのプロパガンダに使用されたものとはいえ当時の映像にAI彩色したり、両軍の動きをアニメーションで示したり、ドローンで空撮したりして意欲的なのに、番組作成方針がちょっと残念だった気がしてならないのです。

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ノモンハン前史

1939年に起こったノモンハン事件。それに至る出来事をあらためてピックアップしてみました。

・1904-05年日露戦争

・1911-12年辛亥革命

・1914-18年第一次世界大戦

・1917年ロシア革命

・1918-22年シベリア出兵

・1922年南洋諸島委任統治開始

・1923年関東大震災

・1924年スターリン体制始まる

・1924年モンゴル人民共和国

・1927-28年山東出兵

・1931年満州事変

・1936年徳王による蒙古軍政府(関東軍内モンゴル工作)

・1937年盧溝橋事件(日中戦争)

・1938年張鼓峰事件

きな臭い30数年ですね。東アジアでの出来事を中心に並べましたが、欧州情勢も加えたらもう大変ですよ。

 

ソ満国境

どんなに歴史書の図録が充実していても、音声付動画映像にはかなわないな。NHKのドキュメンタリーではほんとよくわかる。

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モンゴルと書いてあるのがいわゆる「外モンゴル」で成立して15年ほどのモンゴル人民共和国。その下が「内モンゴル」で中華民国の領土です。*1

ノモンハンは「満」の字の左側(西側)。

前年に起こった張鼓峰事件の張鼓峰とはその全く反対側、現北朝鮮とロシアの国境付近です。ウラジオストクのすぐ西南ですな。

1930年代にの国境紛争は「X」印で示しておきました。

 

「ノモンハン」アルヴィン・D・クックス

朝日文庫1994年。単行本は朝日新聞社から1989年に出版されている。原著 "NOMONHAN Japan Against Russia, 1939" Alvin D. Coox は1985年の出版です。

大著です。読みました。

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NHKの番組案内にあった「150時間を超える陸軍幹部の肉声テープも入手」 とはクックスが日本などで関係者に行ったインタビューテープではないのかな。番組でクックスへの言及がなかったのはちょっと残念です。

 

関東軍・陸軍参謀本部の読み「不拡大方針」

ソ連がくるなら北/北東・東側の国境からだろうと関東軍も陸軍参謀本部も読んでいた。ノモンハンのある西側など全く注目していない。だってなんの実質利益もないんだもの。草ぼうぼうの荒地ですよ。来るんだったら東側から。そのいい例が前年に起こった張鼓峰事件でした。

一方で、よせばいいのに2年前の盧溝橋事件をきっかけに日中戦争が始まった。師団を急増しても間に合わない。兵力が追いつかない。師団の訓練も十分にできていない。

本格的な戦争が始まったら兵力が回せない。だからソ満国境の大方針は「不拡大」これはみんな分かっている。

それでもちょろちょろと起こるソ満国境での動き。これに対応するために新規に編成されたのが、ノモンハン事件に当たる第23師団でした。熊本で新規編成された師団です。当時の参謀本部の評価としては残念ながら「精鋭部隊」とは考えられていなかったようです。

 

ソ連・モンゴル人民共和国側の事情

相手のソ連モンゴル側の当時の事情をNHKの番組ではもっと紹介してほしかったな。なんだか日本・関東軍が「領土的野望」をもってノモンハン事件に当たったかのような印象を受けてしまう。ソ連につぐ共産社会主義国としてモンゴル人民共和国が成立したのはいいけれど、モンゴル人は満洲国にも中華民国(内モンゴル)にもいる。半モスクワの勢力も依然強くあり政治情勢は不安定だ。トロツキーを排除し権力を握ったスターリンは領土問題に対しては大変シビアで譲歩などを考えただけでも粛清されてしまう。ましてやモンゴル人が満州国と呼応して反旗を翻したらもう大変なことになってしまう。

そこに「国境」が曖昧な満洲国西部・ソ満国境東部があったのですね。そもそもモンゴルは遊牧民なのであんまり明確な「国境」意識もなく行ったり来たりしていたし。

 

(続きます。)

 

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*1:当時の中国(中華民国)は外モンゴルの独立、つまり「モンゴル人民共和国」を認めていなかったということもありますが。