〜 ハリセンボンのおびれ 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

仕事を任せるのは難しいね

ベンチャーの経営者の人がこうこぼしているのを聞いたことがある。

創業時には優秀な人が集まってきたんだけど、仕事が軌道に乗ってきて5年目ぐらいから採用に力を入れ始めたら、凡庸な新人しか集まらなくなった。

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実は、それは採用された人の能力の問題ではなくて、ベンチャーの立ち上げ時、何でもやらなきゃならないそんなカオスの状況が人を育てるのだと。ある程度、仕事が軌道に乗ってきて、後から入ってきた人たちは、先輩や上司がいるので、仕事を任されることが少なくなったり、自分の能力を超えるような難しいことを要求されることが少なくなるからなのだと。そんな説明も合わせて聞いた。

 

それはそうかもしれないな。
でも、経験の少ない人に仕事を任せるのは、実は、先輩や上司としてもとっても難しい。

 

以前、M&A案件である企業を買収するときのデューデリを行ったときのこと*1。 顧問の事務所の弁護士さんと一緒に、ぼくらの法務部門が調査にあたるのだが、担当として送られてきた弁護士さんが、実は修習を終えたばかりの新人さんでした。だから、こちら(買収側)としては、M&A案件には慣れている中堅の A-くん(30代半ば)に主担当をお願いした。

 

調査も進んで最終段階、買収先企業の幹部にインタビューをすることになったとき、主担当のA-くんがぼくに意見具申してきた。

 

インタビューは新人弁護士さん主導でやってもらいましょうよ。

 

ちょっとひっかかる提案だったけど、A-くんの意見を尊重して、インタビューは任せることにした。A-くんとぼく(法務室長)も同席のもとである。

 

ところが、と言うか、やっぱり、と言うか、あまりうまいことインタビューが進まない。ふと A-くんの様子をみると、目を吊り上げてイライラしている様子が伺われる。案の定、休憩時間になると「ダメですよ、あんなのじゃ!」とぼくに言ってくる。自分が交代すると言い出したのだ。しかし、ぼくは却下した。

 

新人さんに任せると言ったのは君だよ。今、交代させたら、彼はどう思うかな?

 

時間もかかったし、100点満点とは言えなかったけど、新人弁護士さんは、何とか数人の幹部のインタビューを終えることができた。A-くんはと言えばたいそう不満そうで、数日間は機嫌が悪かったけどね。

実はA-くんは、そもそもが新人弁護士がデューデリ担当して送り込まれてきたことが気に入らなかった。T-大出で、この仕事が終わってから米国留学が決まってるのも気に入らなかった。書類を審査しながらデスクでランチしたりとか、そんな「しゃれた」態度も気に入らなかった。気に入らない若造だったから、意地悪のつもりで、ちょっと無理目のインタビューをさせてみよう、できなくてオロオロする新人弁護士をみて笑ってやろうと思っていた*2。ところが、実際にやらせてみると、思ったよりももっとずっとできなかったので、今度は主担当の自分の責任になるかとイライラし始めた、と言うわけだった。意地悪が自家中毒を起こしちゃったわけだ。

 

A-くんは仕事はできるんだけど、ちょっと変な劣等感や猜疑心が強くて*3部下に仕事を任せられないタイプだったので、いい機会だとは思ったのですが、この小さな事件の後も、自分で仕事を抱えるクセは治らなかったですね。

 

仕事を任せるのも、難しいものです。

 

© 朽木鴻次郎
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*1:due deligence

*2:とぼくは推察していたんです。

*3:仕事や勉強での苦労が悪い方に出てしまったのだな。