〜 ハリセンボンのおびれ 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

やったもん勝ち

もう10年近く前になる。古い友人が「飲もうか?」と誘ってきた。当時ぼくたちは50歳になったばかり、「最後の一花を!」みたいな話かな? そう思って待ち合わせの居酒屋に出かけていった。

 

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欲張るからだよ。

 

いい加減に日本酒も回ってきた頃、彼、エヌ-くんがボソッと呟いた。

 

「外されちゃったよ...!」

 

え?なんで、お前の会社、役職定年は55歳じゃん。あと5年は行けるだろう。

 

「いや、そうなんだけどさ....」

 

エヌ-くんが部長を務める企画開発部は社長直属で特殊な客先を担当していたのだが、数ヶ月前に、社長が彼を呼び出し、彼の企画開発部を発展的に解消して、営業部に吸収する計画を話してきたのだという。

 

それでお前はどうなるの?

 

「うん、営業部長は執行役員兼務の部長だったんだ。おれが営業部に移ったら、その部長兼務の役員は兼務から外れる。それで、おれを営業部長にするって言われたんだ。だからなんの反対もなしに組織改編に同意したんだ」

 

それがどうして「外された」になるんだ?

 

「組織改編が経営会議で承認されて、2週間ぐらいしてから、異動の内示が出たんだ。びっくりだよ。営業部長のはずが、『社長付部長』だって。部下なしの窓際部長だよ。

仕事はなんですか!? って社長に問い詰めても、のらくらするだけだ。役員兼務の営業部長とは以前からちょっとあったし、おれも社長の意見にはちょいちょい口を挟んでいたからさ。

煙たがられたんだろう。

社長と役員兼務の営業部長、その二人にはめられて、外されたんだよ。

『営業部長にしてやる』ってエサに欲かいて飛びついたのが失敗だったな...」

 

エヌ-くんは、その後5年ほど会社に残り、55歳で早期退職制度に応募したのち、今は地元の長野に戻って地場企業のマーケティング・コンサルタントをやっている。独立して3年、どうやら客先も増えてまあまあの評判らしい。

エヌ-くんとは年に一度は飲む。東京に出張することがときどきあるらしく、先日も出張を終えて信州に戻る前に軽く飲んだ。

 

「クチキ〜、組織とか仕事とかは、がっちり掴んで、離しちゃいけないんだよな...」

 

そう呟いていた。もういいじゃん、コンサルタントでうまくやってんならさ。*1

 

© 朽木鴻次郎
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*1:特定されてはなんなので、少しフェイクは入れています。エヌ-くんの了承をとっての投稿です。