令和を祝って、部屋でモデルガンをいじって遊んでいると、ふらりと現れたのはヨレヨレの黒いスーツを着たむさ苦しい若い男だった。
あんた、あの男から『担々麺』の作り方を教わったんだって?
しかも、カップの汁なし坦々、ときたもんだ。
ふ、あの男のやりそうなことだぜ...
オレが本当の担々麺を食わせてやるよ、明日、同じ時間にここに来い。
あんた誰? ここって、ぼくのアパートなんですけど...
翌日、同じ時間に男はまた、ふらり、と現れた。後ろにはスーツ姿の若い女性が。彼女はなんだかオロオロしている。
これが肉碎『よくそい』だ*1。
聞けば、合挽き肉に醤油酒みりんで下味をつけたものをフライパンで軽く炒めたのち、沸騰したお湯に入れてアクと余分な脂をとり、ざるにあけたものを、もう一度フライパンでみじん切りのネギとニンニクとで炒めたものが「肉卒・よくそい」だとか。
常備材ですね。1食分づつ冷凍しておくと使い勝手がいい。
これを使う。麻辣粉。そして、ラー油は四川風のものだ。
さらに....
四川の師父(しーふー)から特別に分けてもらったものだ。日本では手に入らない...ふふふ。
あれ?「輸入業者」って? このインスタント担々麺の素、カルディで見たような...?
うるさい! オレはあの男とは違う。麺にもこだわりがあるんだ!
あれ?これ、ぼくもよく買うよ。近所のスーパーで安いけど、おいしいのよね。
すみません!許してあげてください!この人に悪気はないんです。ただ、本当の担々麺については、どうしても黙っていられないって...!
若い女性は、すがるように何度もぼくに頭を下げる。
ふと見ると、男はニラなどを取り出し、ちゃちゃっと担々麺を作っていた。
食べてみな!
うーん、爽やかな辛さで、うまい...
は? もしや君は...TZ新聞、文化部のヤマオ...?
振り返ると、若い男はすでに部屋から出て行くところだった。
... し、失礼します!!
君は確か、ゆーこ、さんだよね...? 1983年入社だから、ぼくより一年先輩のはずですが、なんでそんなに若いん?
と、女は男を追うように出て行ってしまった。部屋には汚れた調理具が...
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2019.5.7 追記
後日、涼やかな女手の手紙が届いた。差出人は栗田U子とあった。個人情報に配慮して一部伏字にしてあるのはご了解いただきたい。封を開けると、青いインクの万年筆でしたためられた礼状である。レシピが添えてあった。
Yama岡は邪道と申しておりましたが、中華生麺を使うより、スパゲティを使った方がくっついたりモサモサしたりしなくて美味しいですよ。坦々スパゲティ、spaghetti ragù alla cinese 是非お試しになってくださいませ。取り急ぎ、先日のご無礼のお詫びと御礼まで。かしこ
素晴らしい女性だ。1984年新社会人のぼくより一個上、そろそろ還暦をお迎えになるらしいが、いつまでもお若い。
(坦々スパゲティ、ざく切りキャベツを入れてみました。うまいです。)
© 朽木鴻次郎
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*1:多分あってると思うけど、漢字が違うかも。