〜 ハリセンボンのおびれ ・旅芸人 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

インプリメンテーションだ!

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     グエン・フエ通り8番地、OSICビル。ここに事務所がありました。

 

ベトナムに赴任していた頃のことですから、1990年代の前半のことだと思います。ぼくは30台の前半でした。ホーチミン市の沖合で海底油田の開発をしていたんです。油田を開発するにあたって、重要事項はベトナム政府と定期的に操業委員会を開催して協議・決定していました。

あるとき、委員会開催に先立ち、来期の事業計画予算を提出したんです。すると、ベトナム側から事前の要求がありました。

 

「来期の予算はこれでいいが、今期の予実対比・実行状況を詳細に報告してほしい」

 

すぐに、当社サイドの委員であるKさんと話し合い、対比の詳細と作業進捗状況の詳細を作り、資料に添付して、先方の事務局に再提出しました。

 

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グエン・フエの突き当たりに浮かんでいたフローティングホテルから

さて、翌日、だったかな? 委員会が開催されました。ベトナム側と外国側(日本・アメリカ・イギリス)全部で、20人以上の委員が出席しました。会議の目玉は、来期の事業計画予算です。Kさんが英語で説明します。Kさんはぼくの上司でもあり、当時40代の前半、経理畑出身のすごく冷静な方です。Kさんの英語は、発音こそジャパニーズですが、語彙も豊かで、平板な調子ではありますが、決して通じないものではない、むしろ、英米などの英語圏の人にとっては、「わかりやすい」ものだったと思います。

そんなKさんから、来期の事業計画とそれに関する予算が粛々と提示されていきます。ベトナム側の委員たちは、だんだん怪訝な顔をし始めます。先方の事務局は、ぼくに目配せします。

「おい、前期の予実対比と作業進捗の報告はどうしたんだ!?」

 

と、目で問いかけているのがよくわかります。

 

隣で、Kさんは、冷静な口調で、来期の計画を説明し続けています。Kさんの視線は、手元の資料に落ちていて、数字を追っています。相手側であるベトナムサイドの参加者には注意を払っていません。

ぼくは、Kさんにメモを渡しました。

 

「予実対比の説明をお願いします!」

Kさんは、うなずいて、淡々と説明をします。

 

「さて、昨年度の予実対比と作業実績ですが、添付されている資料をごらんください。< 添付資料に沿って説明する。> はい。来年度計画に戻ります。私どもといたしましては…」

 

ベトナム側が、ざわつきます。やばい! と思いましたね。すると先方の委員長が立ち上がって、Kさんのプレゼンをさえぎります。

 

「我々としては、貴方の報告には満足できない。予実対比と作業実績の詳細が報告されていない!」(ベトナム語から英語への通訳)


いつもは温厚な委員長が怒っています。Kさんは、その怒りがわかりません。説明したじゃないか?

 

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サイゴン

 そうです、ベトナム側は、Kさんが、あんまり淡々と同じ調子で説明をつづけるので、来期予算の説明と、前期実績の報告と、区別がついていなかったんです。

 

そんな、ばかな、と思うでしょう? 

ベトナム側は、こちらが何を説明しているか、わかっていなかった。資料も、昨年実績は、「添付」の形にしたので読んでいなかった。本文だけしか読んでなかった。おまけに、会議で、Kさんが一本調子で説明したから、来年の予算を提案している部分と、昨年の報告をしている部分との、区別ができていなかった。

 

その結果がベトナム委員長による上の怒りの発言です。(委員長は、いつも温厚で、すごい、いい人なんです。よっぽどの怒りです。)

 

ぼくの相手側であるベトナム側の事務局も、こうなったら、こちらの味方などはしません。英語で大声を出し、こう言いました。

 

「貴方には、ベトナム側の要求を事前に伝えていたにもかかわらず、それが無視されている。われわれは、前年の作業実績、implementation(インプリメンテーション)が欲しいのだ。インプリメンテーションの説明を聞かなくては、予算など審議できない!インプリメンテーションだ!」

 

ベトナムの委員長が怒りの発言をしてしまったら、もう、その先には進めません。いったん休会にして、資料を大きく作り変えて、再々提出。後日、会議を再開しました。

 

ベトナム側が作業実績、implementation(インプリメンテーション)に拘泥したのは、ぼくたちにはわからないなにか、重要な意味があったのだと思います。一方で、日本側のぼくたちは、前期の作業実績よりもむしろ、来期の事業計画予算の承認に目が向いていました。

 

加えて、Kさんの説明が、あまりに平板だった……

 

*自分たちのことだけを考えてはいけないし、相手側の求める意図は十分に尊重しなければならないし

*プレゼンをするときには、常に相手の顔色を伺って、わかっているかどうか、確認しながら、重要な箇所は、何回も繰り返して強調して、しすぎることはない。

 

決してKさんをあと知恵で非難しているわけではありません。隣にいたぼくがKさんを遮って「ここから前期計画のインプリメンテーションを説明します」とベトナム側の注意を引く発言をすることだってできたわけですから。

ぼく自身も場を読めていませんでした。

 

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グエン・フエを歩行者天国にしての「花市」

後日、無事委員会を終えた後、和やかに会食しました。

 

ベトナム側の事務局に

「おまえ、こっちがインプリメンテーションの説明はちゃんとしたの、わかってただろ!」

二人きりのチャンスのときに笑いながら言ってみると、

 

「そんなことはわかっている。当たり前だ( ^ω^ ) だがな、上司に逆らう人間はいるか? お前も同じだろ?」

 

と返されました。

 

うーん、おっしゃるとおりです... ε-( ̄ヘ ̄)┌ ダミダコリャ…

 

 

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