〜 ハリセンボンのおびれ 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

日本におけるDEIのEquity-公平性について


最近、DEI(多様性、公平性、包摂性)をテーマとした研修の依頼が増加していると感じています。特にここ1年の間に顕著で、ご依頼いただく件数も増えています。
その中で気づいたこと、それは、日本語で「公平性」と訳される「エクイティ(Equity)」についてです。DEIはDiversity, Equity & Inclusion の頭文字です。Eは「エクイティ(Equity)」なのです。

英語では「エクイティ(Equity)」と「イクオリティ(Equality)」がかなり大きく異なり、区別されています。エクイティ(Equity)は「公平」、イクオリティ(Equality)は「平等」などと訳されることがありますが、日本語の漢字二文字の熟語に置き換えるとその違いの本質が見えにくくなるような気がします。DEIにおいて、「エクイティ」は結果の平等性を指し、「イクオリティ」は機会の平等性を指します。この区別が英語圏では重要視されており、DEIの議論では欠かせない要素となっています。

しかし、日本語で「Equity」を「公平性」と訳す際、この区別が曖昧になりがちです。そのため、DEIの研修では「公平性と言われることの本質とは何か?」という問いかけをイントロダクションで行い、受講者に考えてもらうことを大切にしています。

 

公平性には2つの考え方があります。一つは「機会の均等性」、もう一つは「結果としての均等性」です。欧米から導入されたDEIの考え方では、例えば、男女同数の経営者や政治家のバランスなど、結果としての公平性が重要視されます。これは、社会全体での公正さや正義を追求する姿勢が背景にあるような気がします。

一方、日本ではどうでしょうか。日本社会の成り立ちを考えると、確かに多文化、多民族は日本の中にも存在しますが、全体としては欧米よりは均一性が高いと言っても良いと思います。人種や宗教、文化の違いが目立つ欧米とは異なり、均一性の高い日本社会では、日本では「結果の均等性」よりも「機会の均等性」が重視される傾向が強いように思えます。つまり、同じスタートラインに立つことが重要視され、その結果としての成果は個人の努力や能力に委ねられるという考え方です。

この考え方が、日本のDEIにおける「公平性」の理解に影響を与えているのではないかと感じています。日本では「機会の平等性」が重視されることで、結果の平等性を追求するエクイティの概念が十分に取り入れられていない可能性があります。もちろん、これが悪いというわけではなく、日本社会の特性や歴史的背景を考えると自然な流れかもしれません。

さらに、欧米では社会正義としての「エクイティ」が議論されるのに対して、日本では職場、会社や組織、あるいは内閣や国会や地方議会も含めて、働く場での「公平性」が議論されることが多いのではないでしょうか。そこでは、感覚的に「結果としての均等性」、つまり、弱者に一定の保護を与え結果としての(数などが)同一になることすることには、若干の違和感や後ろめたさを覚え、機会の平等性をより重視する考え方が強いようです。

私自身、日本人として「機会の平等性」がより正しいと感じる傾向を持っていることを否定しません。しかし、この考え方も、もしかしたら、数年後には変わる可能性があります。

とは言え、機会の均等性と結果の均等性は必ずしも相互排他的ではありません
これらの概念は相互に関連していると考えることもできます。

もし相互排他的な関係にあるとすれば、機会の均等性を追求することで結果の均等性が損なわれる、またはその逆が成立することを意味します。例えば、全員に同じ試験を受けさせるという機会の均等性を徹底することで、特定のグループが不利になる場合、その結果の平等性が犠牲になると捉えることもできるでしょう。

一方で、これらが相互排他的ではないと考える場合、ある文脈で結果が平等になるように調整されたものが、別の文脈での機会の均等性を生むと考えることもできる。例えば、大学入試で特定の学生グループに優位な加点を与えた場合、入試や卒業という観点から結果の均等性が生まれるかもしれません。そして、その後の社会人生活や就職の段階では、有名大学卒という機会が均等になると考えることもできます。

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DEIは確かに外国から持ち込まれた概念であり、企業が多様性を受け入れることで存続のための競争力を高める必要があるという状況は現に存在しています。ただ、その多様性を受け入れる際に、機会の均等性と結果の均等性、どちらの公平性に重点を置くべきかは、個人個人が自分の価値観を見つめ直す必要があるのではなかろうかと感じています。

 

©️朽木鴻次郎 プロダクション黄朽葉

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