〜 ハリセンボンのおびれ 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

マネジャーの資質について

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任天堂で学んで実践したマネジメントについて考えている。前回は「マネジャーの資質と技術」の関係についてだった。

tavigayninh.hatenadiary.jp

 

今回は、マネジャーの資質についてぼくが任天堂で学んだこと。とはいえ、オーソドックスで、ジミ〜なものです。外国流のかっこいいものではないの。

マネジャーの資質で大事なもの三つ。

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な〜んだ? とか思いました?肩すかし食らった感じ? まあいいや。 

マネジャーの資質として必要なのはこの三つ。
・「私心がないこと」
・「メンバーの一人ひとりに興味を持ち、彼/彼女らの良いところに敬意を払うこと」
・「問題が発生したら、その責任を追求することに力を入れるのではなく、問題解決を目指して行動すること」


もう少しなんかあるだろうって? ...... 物事を考えるときはシンプルな方がいいのですけどね。だったらあと1-2個、ご自分で考えてみてください(下図)。

  

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 組織の目的、企業の業種、職種や文化がそれぞれの組織や職場で違うんだ。「?????」についてはそれぞれで違っていて当たり前。皆さんで考えてみてください。それが組織の個性じゃないかな。

 

では、基本の三つについて。

1. 私心のなさ

任天堂の岩田社長は、マネジャーの資質の一番大事なものにこの「私心のなさ」を揚げていらっしゃった。山内溥相談役が強くおっしゃっていたことだともいう。

自分の利益のためにごまかして立ち回ることを「ずるい」といいます。ずるい人は「自分はみんなをうまくごまかせている」と思い込んでいますが、人は、他人のずるさには敏感なんです。うまくごまかせていると思っているのは、当人だけ。山内さんは、人のずるさ、すなわち「私心があること」に敏感で、私心のある人に厳しかったですよ。

岩田さんは、マネジャー研修でまず第一番に「私心のないこと(自分だけが得をする利益を狡猾に追い求めることをしないこと)」をこう説いていらした。

「私心なく仕事に向かうこと」は、マネジャーだけではなく組織人全てに求められることでもある。しかし、より多くの人から注目されるマネジャーにとっては、「私心」は絶対にあってはならないことである。

 

2. メンバーの一人ひとりに興味をもち、良いところに対して敬意を持つ

マネージャーに必要なのはメンバーとの共感と相互信頼です。

岩田さんはそうおっしゃっていた。コミュニケーションの前提には、相手への尊敬、関心、敬意が必要なのです、と。

「メンバーの一人ひとりに興味をもち、良い資質に対して敬意を持つ」ことを相手に伝える技術の一つは「挨拶」であろう。

挨拶は「あなたを人として認識して、興味や関心、あるいは敬意を持っている」ということを簡潔に伝えるという機能を持った習慣である。

岩田さんによる挨拶の定義である。この言葉を聞いたとき「〇〇という機能を持った習慣」という表現がいかにも理系人間の岩田さんらしいと思いました。挨拶というのは、お互いが認め合い、敬意を持ち合うことをスムースに実現するための人間文化が産んだ知恵であると。

「挨拶」については、マネジャーに必要な技術についての回でもう少し詳しく話します。

 

3. 責任追及よりも問題解決を志向する

任天堂に勤め始めた頃のあるエピソードを紹介する。

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初代DS2004年

2005年のまだ春になってはいない寒いころ「プレイやん」というゲームボーイアドバンスで遊べる音楽プレイヤーが発売になった。ところがですね、サウンドの左右が逆だった。当初はネット販売限定だったのでお客様にすぐ連絡して、交換対応させていただきました。申し訳ありませんでした。

でね、事故対応会議のときに「誰がどう間違って左右が逆になったのか?」とか「これは誰の責任なのか?」の話が全く出ないのですよ。ぼくら部門長レベルの会議でも、岩田さんや経営陣も交えた文案の最終決定会議でも。

お客様にお詫びと説明をしなければならないその説明文を一所懸命みんなで作っていく。関係部門長が作った案文に岩田さんや宮本さんが、ペンを走らせて、文章の修正をしていたりもしました。

ぼくが最初に勤めた石油会社はその逆で何かあるとすぐに「誰の責任だ!」「誰がしでかしたんだ!?」となる組織だったから、びっくりした。

その後もよ〜く観察していると、責任追及よりも問題解決志向が強い会社でしたね、N社さんは*1

任天堂といえども、もちろんいろんなミスや製品不具合はやはり現実にあって、その度にドタバタと解決していかなければならないんだけど、もちろん、誰の責任か、は意識はされますが、むしろ、問題を解決しようよ、と協力し合うことが普通だった。

岩田さんは、あるときにこうおっしゃっていました。

「あの人が悪い」「誰それさんのああしたことが失敗の原因だった」と他罰的であることは止めてはどうでしょう。他罰的であること、失敗の原因を他者に求めてもモノゴトは解決しません。むしろ「自分はどうすればよかったか」を考えてはどうでしょうか。

任天堂という会社は割と「おっとり」していて、責任をゴリゴリ追求するというよりも、発生してしまった問題解決に向けて協力して行こうよという傾向の強い会社でした。

問題が発生したとき、「誰が悪かったの?」と追求するよりも、マネジャーは「どうやってこの問題を解決しようか?」と考える資質が大事だ。これは任天堂で学んだとても重要なことの一つである。

 

4. その他の資質

そのほかにも、どんな資質が必要か、それは技術ではなくて資質なのか、そういうことはちょっと組織や職場、チームごとで違うし、ご自身で考えてもらわないとちゃんと納得はいかないと思います。ぼくがマネジメント研修を行うときも、この問題は個人やグループワークで考えてもらったりする。

「私心のないこと、メンバーに敬意を払うこと、問題解決を目指すこと。それ以外に、マネジャーに必要な資質はなんなのか」ということは常に問題意識として頭の隅に入れておいて欲しいと思います。

 

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じゃあ、マネジャーの資質に大事だと言われる、決断力や一貫性、責任感、リーダーシップはどうなんだよ、誰の責任か気にしないで、マネジャーが無責任でいいのかよ!という声もまた聞こえてきそうではある。

 

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今回の記事は、少し長くなりました。決断力や責任感、リーダーシップについては次回お話にします。

とはいうものの、リーダーシップについて先に身もフタも無い話をすると、マネジャーにはリーダーシップはあってもいいけど、リーダーシップがありすぎることの弊害もあるし、リーダーシップと言ってもいろいろだし、いろんな人がいろんな定義のリーダーシップをあれがいい、これがいいと言ってて混乱しちゃうので、ぼくはいわゆる世の中でいろいろ言われるリーダーシップってマネジャーの必須の資質ではないかもと思っています。 

詳しくはまた次回で。

 

© 朽木鴻次郎
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HPはこちらです。

kuchiki-office.hatenablog.com

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*1:任天堂の社員は、自社のことを話すとき「N(エヌ)社」という。「任天堂」と飲み屋さんとかで言っちゃうと目立っちゃうからね。