「三方一両損」という落語がある。古典だからネタバレいいよね。
三両を落としてしまった男と、それを拾った男とが揉めている。名奉行、大岡越前守忠相のお裁きを受けるのだが:
・落とした男は「落としちゃったんだから」と三両を受け取らない
・拾った男は「てめえのもんでもねえ金はもらえねえ」と受け取らない
実にいじっぱりなケンカなの。そこで大岡越前は、フトコロから一両を出した。三両と一両合わせて四両(しりょう)、四枚(しまい)の小判がお奉行の膝前に並んだ。
「ここに四両の金子がある。落とした男に二両返せば、三両のところ一両足りずに一両損、拾った男に二両渡せば、三両もらえるところが、一両損じゃ」
「この越前も出さぬとも良い一両を出して、一両損。三方一両損となる。どうじゃ、あははははっ!」
さすが、加藤剛*1、いやお奉行様、名裁き!
ところがね、星新一はエッセイで
「揉めてる男たちにそれぞれ一両、お奉行に一両、それで三方一両得になるのではないか」
と実に合理的な解決方法を提案していた。*2
交渉の用語に、ウィン-ウィン(win-win)関係という言葉がある。説明は不要であろう。*3 星新一の提案は、まさにウィン-ウィンである。
ところがさ、三方一両得、で納得できる? 「さすが大岡様だ、名裁きだ!」 そう思う?日本人なら、日本文化を母文化とする感覚があれば、そうは思わないだろう。ウィン-ウィン(win-win)といわれる関係にある種の胡散臭さと抵抗感を感じるのだ。
交渉とは、自分の得たいものを得ることだけが目的ではない。当事者間で納得して良い関係を形成し継続することだ。ならば、「損・ルーズ(lose)」もまた有効で説得的な解決方法ではないかと思う(日本国内でのお話ですよ)。*4
© 朽木鴻次郎
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