江北の黄某は生員であった。郷試を数度受けていたがいずれも上手くいかず、毎日くさくさとしていた。ある年の清明の頃*1である、読書に飽いて若葉の薫る庭をぶらぶらとしていると、誰かから見つめられている気配がする。さっと振り返ると茂みの後ろに女が隠れるのが見えた。隠れた女は「くっくっ」と笑いを堪えていたのだが、どうにも耐えきれなくなったのか弾けるように笑いだした。品のある風情の美しい若い女である。ただ笑うのがこらえられないようであった。黄が声をかけるといやがりもせず笑いながら応じるのでそのまま懇ろになった。女の名前は涼伶といった。姓は胡である。女の笑う姿があまりに明るく、黄の家のものも誰もが涼怜を好みその言うことを聞くのであった。
果たして数ヶ月も過ぎた夏の頃、珍しく笑いもしないで女は黄をじっと見つめ、あなたの先先代には不徳があってそれがために試験には受からないのだという。
涼伶はその先先代に恩を受けた妾の曾孫だと明かした。そして、女は髪に差していた鋭い銀の簪を抜き、真剣な眼差しで黄に言った。
「黄さん、あなた様が試験に受かるためには......」
目玉を取り出し、女がその口に含み暖かく柔らかな舌で十分に舐め清めたあと、もう一度はめ戻してみれは、物事の真実がわかるようになりなんなく試験には合格するという。
あなただったら、女に自分の目をくり抜かせますか?
© 旅芸人・tavigayninh・朽木鴻次郎
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