小学校の低学年の頃だ。
どこかの駄菓子屋の景品がゼロ戦とかを模したちゃちな紙飛行機で、いくつかが無造作に箱に入られて店先に置かれていた。
いくらだったかは忘れたが、百円だか二百円だか、普通ぼくたちがその駄菓子屋で使うお金の数倍の買い物をすると、おまけでその紙飛行機をくれるという、まあ、たわいのないキャンペーンが行われていたのです。
紙飛行機は欲しかったけれど、そこまでお金を使えないし、そもそもそんなお金をは持っていない。なんせ、1960年代の半ば過ぎごろの話だからね。
ともだちとぼくが買い物をすませてお店を出るときに、そいつはさっと景品の紙飛行機をひとつとって、足早に逃げ出そうとした。
お店の人は気がついていない。
ぼくは単にそいつは紙飛行機は景品だということを知らなくて誰でも持って行っていいものだと勘違いしたのだろうと思い、「xxxちゃん、そのヒコーキは...」と言いかけたら...
「いいんだよ! 行くよ!」
と、ぼくの手を取って駆け出し始めた。
何をしているのかその時は全然わからなかったのだが、後になって、母親から教わったのか、自分で気がついたのか、それは覚えてないんだけれども、「盗む」というのはこういうことだったのか、とわかった。
そういう経験はいくつもある。みんなそうなのかな?そうしてオトナになって行くのかな?
ぼくはオトナになっても、わりとウトいところがあって、1984年、広州のホテルに長期滞在しているとき、休日で部屋で本を読んでいると「ピンポン」とチャイムが鳴った。ドアを開けてみると、若い中国女性が英語で「電話を使わせてほしい」という。
ローカル電話だとは思うが、部屋の電話だと僕にチャージされてしまうので、ロビーのリセプション裏の電話機(ローカルコールもできる)まで連れて行って、ここで電話ができるよ、と教えてあげると...
「You don't understand anything! (なんもわかっちゃいないわね!)」
と、すっごいカオで怒鳴られた。それまではニッコニコしたんですよ、その若い女の子は。
あとで、駐在の諸先輩にこの話をすると、「コージロー、お前、なんもわかっちゃいねぇなぁ」と笑われた。
なにも自分のイノセント(無垢さ)かげんを自慢したいのではない。ある種の概念に初めて出会うと理解ができないのだ。そしてその概念を理屈として理解しても、自分の感情として理解できないこともある。
その一つが;
「xxxxになって、自分をばかにしたやつらを見返してやる」
これがわからない。
バカにされて、嘲笑されて、悔しいという気持ちは十分理解できる。仕返ししてやろうと思うこともある。したこともある。しかし、「そいつより上になって見返してやる」という気持ちが理解できない。
ぼくも一人前に異性に振られたことは何度もある。よく聞くのが、男性版としては「出世して、金持ちになって、あんなオンナを見返してやる」というもの。女性版なら「もっとキレイになって、“こんなことならあいつを捨てなきゃよかった” と彼を悔しがらせてやる」そんなのが典型例ですね。
そういう感情を抱く人たちがいるということは想像できるが、全く実感がわかないし、共感もできない。
みゆきさん、ごめんなさい。
お前は、人生希望通りになったので自慢したいのか? といわれるとそれは違いますよ。
上に書いたように異性に振られることもたくさんあったし、転職を余儀なくされたこともあった。身体を壊したこともある。そのほか具体的に申し上げることのできないトラブルはたくさんあるし、全てが解決しているわけでもない。将来、老後への不安もあるし悩みもある。
だけれども、「xxxxになって今の自分を嘲笑する・バカにするやつらを見返してやる」というモチベーションを持ったこともないし、理解もできないばかりでなく、そんなモチベーションなんて持つ価値もないと思う。
それはお前が本当に「嘲笑されたこと」がないからだろう、その自慢をしているのか、といわれれば、そうかもしれないが、よく考えてみると、ぼくをあざ笑う人はいたのだが、いや、いまもたくさんいるらしいのだが、よく理解できないのですね。
古い探偵小説のタイトルじゃないけど、バカヤロウは好きにしろよと思う。
・本気出してガンバって、自分を見下した奴らを、逆に見返してやる。
そういう気持ちが感覚として理解できない人間に育ててくれた親・家族や友人には、感謝です。
......単に鈍感だという考え方もできるな。
だけどね、見返してやる! とお宮さんを蹴飛ばした貫一は、結局はカネのモウジャ、金色の夜叉になってしまうのです。
もっとおだやかに生きたいな。
ちなみに、金色夜叉は明治時代の美文が難しいので、読んでいません。ごめんなさいヽ(´▽`)/
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