〜 ハリセンボンのおびれ 〜

生活と愉しみ そして回想・朽木鴻次郎

私は独り言を言いますね。

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僕が働いた最初の会社は、海外で日本に持ち込むための石油を掘る会社でした。国策的と言ってもいい事業です。ですから、日本政府からの投融資や税務上の優遇措置を受ける手続き申請ために、お役所と仕事でつながりがありました。

社会人になって、2−3年目のことだと思います。ある制度の申請のために、管轄のお役所に出かけて行ったんです。今ではどうかは知りませんが、当時はなにごとも「根回し」「根回し」。申請書類なんかも、いきなり持って行くんではなくて、原稿の段階で、「相談」として持ち込んで、いろいろ意見、手直しをしてもらうんです。

「はははは〜、お説、ごもっとも〜〜」

と、担当官の言う通りに、それこそ「てにおは」レベルまで言われる通りに直すんです。それで初めて申請することができる。

で、いろいろと直してもらって...... それも一回の事前面談じゃないんですよ、二三回は行きましたね。そうして、会社でハンコ押してもらって正式書類にして、提出しにお役所に出かけて行ったんです。それが......

「悪いんですけど、この書類では、受け付けられないんですよ〜〜(涙)」

と、担当官が申し訳なさそうに言うんです。お役人が申し訳なさそうにする、謝るなんて、びっくりです。

(なんで? なんで?) と思いましたね。

お上に文句を言うと、もっと状況が悪くなりますから、こっちも下手にでて、話を聞きました。すると....


その担当官の上長(課長なのか班長なのか忘れましたが)、その横槍が入って、つまらないことを訂正しなければならなくなったんです。事前に担当官のOKは取っているし、同じ案件で同じ内容の書類で、前回は通っている前例があるんです。それでも、その役所の上司はダメだ、って言っているらしいんです。

しかも、要求された訂正の内容は、本当に些細な形式ばったことでした。しかし、言われた通りに訂正するためには、もう一度、取締役会を開催し直さなければならない。こっちは国策会社なもんで、財界のお偉方もいっぱい取締役になってます。再開催、もう一度ハンコをもらうなんて無理です。

 

 

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困ってしまって、いったん会社に戻って上司に相談しました。当時の上司は50代前半の、次長のYさんでした。

「一緒に行って、頼んでみるか......」

Yさんの意見としては、20代半ば、ぼく程度の若造・ひよこが来ていることがお役人の気に入らないのかも知らない、ということでした。そんなこと言われてもな...


で、二人で出かけてみると、担当官は(わざと)席を外して、その、文句を言っている問題の上司だけが出てきたんですよ。Y次長が、条理・泣き落し、とりまぜて説得してみても、にやにやするばかりで意見を曲げない。憎たらしかったね〜

挙げ句の果てに、こう言うんです。

「いま、ここで私は独り言を言います。この書類、別にこの部分だけ差し替えても、ハンコのない箇所だし、誰もわかりませんよね......」

要は「書類を改竄して持ってこい」と、そういう意味なんですよ。

若かったぼくは「しめた、これで上手くいく!」 と思いましたね。正直なところ。

次長のYさんも「なるほど! おっしゃることはよくわかりました。さっそく会社に戻ります!」と笑顔だったんです。なおさらホッとしました。

で、会社に戻って、さっそくワープロに向かい、改竄を始めようとすると、Yさんは言うんです。

「なにやってんだ、バカヤロー! え、取締役会議事録写の改竄? そんな下品なこと、できると思ってんのか! 『独り言を言います』だって? ふざけんな、なめやがって!」

 

いやー、こっぴどく怒られました。

 

なら、どうしたかというと...... Y次長は、H部長とその上司の役員に状況を報告しました。当方の準備した書面に非はないこと、事前確認も得ていること、そして、「独り言を言います」と改竄を要求されたことをです。

 

するとですね、役員が電話をかけたんです。ふふふふふふ。そのお役所の上の上。

「こちらの書類にも不備はあったのかも知れませんが、前例どおりらしいですし、事前確認もいただいているんですよ。... ええ、それに、担当官の上の方から、わからないように書類を差し替えろ、とまで要求されたようで...... いいえ、その人にも悪気は...... ええ、はい、はい、いや、はい、ありがとうございます」

「独り言」で改竄を要求されたことを逆手にとっての苦情が効いたみたいでした。

その場で、Y次長から;
「すぐに行って、書類、出してこい。おまえ、こんどは一人で行けるだろ!」

もちろん! いつもは地下鉄で行きますが、このときばかりは馬場先門から霞ヶ関まで、タクシー乗りました。

あっという間に、書面は担当官に受理されたという顛末です。

以上は、ある一つのケースで、ぼくには忘れられないものです。この経験から得られた教訓は、その後の社会人生活でも、ほんと、役に立ちましたねヽ(´▽`)/ 

 

 

©️ 朽木鴻次郎
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